「イタリア・オペラを支える陰の主役、ウバルド・ガルディーニ」
“ウバルドなしにはイタリア・オペラは考えられない”
サー・コリン・デイヴィス(本書帯より)
私は1979年6月から1981年10月までロンドンに滞在していました。 その滞在中に、半年間下宿をして大変お世話になった、イタリアの巨匠オペラコーチ ウバルド・ガルデイーニ氏をたたえる本が、昨年秋に出版されました。
その当時から、彼は世界で5本指に入る偉大なコーチだと絶賛されており、ロンドンのコベントガーデンでもなくてはならない存在でした。
本の中でも 現在、オペラ界の表舞台で大活躍中の有名な方々が、彼のコーチを感謝の意を込めて絶賛されていますが、実際に今はなき オペラ界の女王マリアカラスも、デビュー時に彼からコーチを受けています。
『ウバルドは舞台上演においても、又録音においても、コリン・デイヴィスのよき右腕でした。 ウバルドは演目を熟知していて、彼自身が偉大な先人から学んだありとあらゆる伝統に精通していました。ウバルドは単にメモをとって、発音を直してくれたりするような普通のコーチとは違いました。 彼はどの講演においても重要な一部を担っていました。』 (ホセ・カレーラス 「私のウバルド・ガルデイーニ」 より)
実際のオペラ界の裏側がしっかりとのぞけるこの本はオペラファンにとって、日本語で本物に触れることの出来る二つとない必読本です。 彼は今年83歳になられます。 昨年体調を崩されましたが、まだまだ本物の芸術家らしい奥深い愛情が常にあふれており、オペラに対する情熱は全く衰えることを知りません。
偉大なるイタリアの音楽家、ウバルド・ガルデイーニ氏。神様がおつくりになった天才としかいいようがないのかも知れません。
彼は世界で5本指に入ると言われたオペラのコーチでした。
とても残念なことに昨年2011年11月24日にイタリアのフェララにある病院で、やさしい奥様に見守られてお亡くなりになりました。彼の生まれ故郷であるポッジョレナーテイコでは名誉村民として教会で盛大に葬儀が行われ、今はポッジョのお墓の中で静かに眠られています。
初めてお会いしたのは33年も前のこと、当時まだ大変未熟な私でしたが、何の偏見も躊躇もなくロンドンで、世界の頂点にあるプロのオペラの世界を通して、本物の人間とは何かをしっかりと私に教えて下さったウバルドガルデイーニ氏。彼の死に対する現実感が全くないまま私は今年の3月に、仕事でミラノに行った際彼のお墓参りをやっとさせて頂きました。
その直後、5月のボローニャ近辺地震によりポッジョは悲しくも地震の被害にあいました。今でも村の教会は中に入ることが出来ず、ミサは仮テントの中です。ウバルドガルデイーニ氏の自宅もやっと1階が使用出来るところまで修復出来たところです。
先週9月15日、私は再度ポッジョのお墓に参りましたが、3割位のお墓がまだ崩れ落ちたままでした。とても悲しい現実です。幸いにもウバルドのお墓はその中でも一番大きなお墓で、しっかりと固定された大理石でしたので崩れ落ちるような被害は有りませんでした。
が、それでもネ―ムロゴが剥がれ堕ちて、お花を入れるクリスタルの花瓶はどこかにいったままでした。例年よりも早く冷え込んできた秋空とともに、とてもはかない、寂しくなる風景がそこにはありました。
この書籍の売り上げは全てウバルドのお墓の修復費用に、直接ウバルドのご家族に寄与させて頂きます。
現在もご活躍されている世界的に有名なオペラ歌手達も、人間的にとてもおちゃめでチャーミングでありながら、コーチとしての天才的な才能を発揮されていたウバルドがいまでも大好きです。彼らと一緒に何時までも彼の名誉を称え続けたいと思います。
2012年9月20日
樋口早苗
皆様のご理解と温かいご支援に心から感謝申しげます。
有難うございました。