「私が祖母からこれらのバッグを受け継いだという実感」
亡くなった祖母の形見であるクロコダイルのハンドバッグが私の手元にやってきたとき、その状態はそれはひどいもので、そのままでは到底使用に耐えうるものではありませんでした。鱗は艶が失せ、ひび割れて、ところどころは裏打ちの布がのぞいている有様。そしてハンドルは切れ、カビ臭さが鼻をつきます。
けれどもよく見れば、クロコのたてがみに当たる部分の鱗をそのまま生かしたデザインやマチの薄い細身のフォルム、閉めるときにパチンと鳴るガマ口など、クラシカルな雰囲気が現代のものとは全く異なり、修理した上でアンティークとして活用してみたいとの気持ちが湧いてきました。
ネットを検索して見つけたプリマベーラに写真を送って相談したところ、手入れをすれば十分使えるようになるとのことで、すぐにメンテナンスを依頼しました。そして2ヶ月後、届いたのはまさにiPS細胞を使って生まれ変わったのでは、と思うほど見違えるようになったバッグ。バラバラになりかけていた鱗はつやつやできれいに肌理が揃い、切れたハンドルは同色同素材で作り直されていました。まるで、アンティークのデザインを復刻して新たに製作したかのようです。
このメンテナンスの過程で感心したのが、修理の技術もさることながら、スタッフの気遣いの濃やかさです。推定製作年代や、当時舶来のバッグが女性の憧れであったこと、使われている金具が現代では細工不可能なほど貴重なものであることなどを教えて頂き、祖母の形見に思い入れがある私自身と同じくらい、このバッグを大事に思ってくれているように感じられることが多々ありました。
祖母が実際にこのバッグを手にしている姿の記憶は私にはないのですが、母によれば、祖母は芝居見物の折などに持っていたようです。きっと、ここぞというときのためのとっておきだったのでしょう。
おそらく作られてから50年近く経ったハンドバッグがこうして見事に甦ったので、二つ目のクロコのクラッチバッグのメンテナンスも迷わずプリマベーラにお願いすることに決めました。こちらは、メンテナンスの他に、チェーンを新たに取り付けて、セミショルダーとしても使えるようにすることもお願いしました。時代を経た革の質感とチェーンの真新しさがそぐわないのでは、という私の懸念に対しては、チェーンにクロコの細リボンを絡ませることで解決して頂きました。
二つのバッグのメンテナンスの費用は、結果として新品のバッグを買えるほどになったでしょうか。ですが、現代のものにはないデザインと細工、何より祖母が長年愛用していたこれらのバッグは、他には代えることはできません。
時間と手間をかけてメンテナンスを施したことで、私が祖母からこれらのバッグを受け継いだという実感が湧いてきます。ヨーロッパではエルメスのバッグを母から娘へ、そして孫へと譲り渡していくように、私も祖母からもらったこれらのバッグを大切に使い続けていくつもりです。
東京都 E.M様
プリマベーラより
今回は2度目のメンテンスをさせて頂きました。 どちらも年代物のクロコダイルでしたが、こちらの想いにしっかりと応えてくれるほど綺麗になり、喜んで頂く事が出来ました。 メンテナンスをさせて頂いていると、貴重なバッグたち、そしてお祖母様のお声が聞こえてくるようでした。 バッグ達の囁きに耳をすませ、お客様の想いにどれだけお応えすることが出来るかが、私達の使命だと思っています。 お客様の大切にしたい想いと、私達の綺麗になってほしい願いは必ずバッグ達に伝わると信じています。